私の愛した彼は、こわい人

 * * *

 スタッフからヘルプの連絡が来たときは、単なる酔っぱらいが暴れているだけだと思っていた。キャバクラではよくあるトラブルだろうと。

『小野タクトと名乗る男が暴れています。神楽オーナーに会わせろとずっと叫んでいて……』

 しかし、その名を聞いた瞬間、いつものつまらないトラブルとは違うと判断した。
 小野タクト。レガーロ社の社員。アスカの、元恋人。
 なぜ奴は俺の店を知っている?
 新宿のキャバクラ店は、俺が所有する店舗の中で四割以上の利益を占めている、経営の要となる店だ。従業員はわけありの奴らがゴロゴロいて、とくに守っていかなければならない。
 とにかく急いで車を走らせ店に向かった。

 店に着くと、すぐにマネージャーがこちらへ駆けつけてきた。
 受付のカウンターが荒れていた。植木やグラスの一部が散乱しており、ボーイたちが片付けの真っ最中。
 小野タクトは入店するなり、ここで暴れたのだという。
 店は通常通り営業はしているが、騒ぎのせいか客がいつもより少ない。

「小野タクトはどこにいる」
「事務所です」

 マネージャーと共に事務所へ向かう。
 小野タクトはそこでボーイ二人に拘束されていた。
 俺の顔を見るなり、鬼のような形相で睨みつけてきた。

「神楽。やっと来たか」

 しかし口調は冷静。暴れることもせず、大人しく座っている。殺気だけが際立っていた。
 ──こいつは、俺に恨みを持っている。
 レガーロ社との契約を解除した。こいつの愛する女を連れ去った。
 どんな理由があろうとも、どちらに非があろうとも、小野タクトは俺を恨んでいるのだろう。
 こちらから謝罪をするつもりはないしする理由もない。こいつから謝罪させる必要もない。
 まずは気になることだけ聞き出すか。
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