私の愛した彼は、こわい人
 握り拳をおろし、俺は乱雑に小野の胸ぐらを放す。
 構ってられねぇ。

「オーナー、どうします?」
「警察に突き出しますか」

 ボーイとマネージャーが小野を睨みつけながら騒ぎ立てる。
 小野の余裕こいた面が視界に入るだけで腹が立って仕方がない。
 だが……感情に流されるな。

「安易に警察を呼ぶのはまずい。お前たちもわかってるだろう。必ず事情聴取を受けることになるぞ」

 俺の返答に、マネージャーとボーイ二人は黙り込んだ。
 ここはあくまでキャバクラ店だ。問題を抱えるキャストが多い場所。未成年もいるし、裏社会と繋がっている輩もいる。警察と絡みたくない理由が死ぬほどあるのだ。
 俺が迷っていると、小野はわざとらしく首をかしげた。

「防犯カメラに僕が暴れた様子が映っているはずだ。すぐ捕えられるよ?」
「いや……」
「おかしいな。神楽、警察を呼べない理由でもあるのか?」

 こいつ。店の事情まで知ってる面をしやがって。
 小野はさらに煽ってくる。

「なあ、神楽。真っ当な商売をしてるんじゃないのかよ。この反社が」

 こいつ。俺をハメるのに必死になっている。
 何を言われても、挑発に乗ってはいけない。殴りたい衝動を抑えろ。
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