私の愛した彼は、こわい人
 案の定、ミーティングが終わるなりコハルに事務室へ呼び出された。

「ねえ、アスカ! なんなの神楽オーナー、どうしたの!? なんでアスカのこと下の名前で連呼しまくってるの!?」

 ねえねえねえー!と、はしゃぐコハルに圧倒されてしまう。
 待って。声が大きい!

「私もよくわからない。ていうか、そんなに騒ぐほどのものじゃ……」

 そうやって誤魔化すしかないと思った。呼びかた如きで狼狽えてる場合じゃない。
 と、言い聞かせた。それなのに。

「恋人だからだよ」

 背後から唐突に、ジンさんの低い声が聞こえた。
 ……て。ええ!?
 いつの間に事務室に現れたジンさん。
 コハルは一度驚いた顔をするも、すぐさま口角を上げた。もうこの上ないほどの不敵な笑みで。

「やっぱり!? お二人っていつの間にそんな仲になったんですかぁ!」
「付き合っているし、同棲もしている」
「え、え、マジ!? うっそ、アスカ! 聞いてないよ~!」
「だが仕事中は立場をわきまえる。アスカだけを贔屓するつもりもない」
「いやーん。なんでもいいんですけどー!」

 末永くお幸せに~! なんて、語尾にハートマークでも付けていそうな勢いでコハルははしゃぎ散らかす。

 なんで、ジンさん! どうして包み隠さずオープンに私たちの関係を暴露しちゃったの!

 後にそれとなく訊いてみると「事実をスタッフに告げたところでなにも不都合はない、むしろ送迎もしやすくなるし隠し事は面倒だ」とご回答をいただき。
「あとは単純に我慢できなくて言ってしまった」と。そのときのジンさんは顔を赤らめていて……
 ちょっとでもそんな彼が「可愛い」と思ってしまう私も私だ。

 しかもお喋りなコハルのおかげで、私とジンさんの関係は秒でサロンのみんなに知れ渡った。
 阿川店長には意外そうな顔をされたけれど「よかったわね」と静かに祝福される始末。

 ……もう、どうにでもなれ。
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