私の愛した彼は、こわい人
 翌朝になっても体の不調は変わらぬまま。オレンジジュースは飲めたのでコップ一杯分飲み干す。
 ここで吐いてしまったらクセになりそうなのでどうにか我慢した。

「やっぱり心配だな。今日の用事は全部キャンセルして休もうか」
「いえ、大丈夫ですから。お仕事はしっかり行ってきてください」
「……でも」

 切ない表情を浮かべないで。
 私はジンさんの背に腕を回し、しっかりと抱きついた。

「お願い。行ってきてください」

 切実な願いだった。
 今は、たしかめなきゃいけないことがある。一人でじっくりと、考えないとならない。
 心配しないで、ジンさん。

 私の気持ちを察してくれたのか、ジンさんは私を抱き返し「わかったよ」と頷いた。
 玄関先で彼を見送る。仕事へ行く間際まで、ジンさんは心配の眼差しを向けていた。
 そんな顔をされると、私も心苦しくなってしまう。

「なにかあったらすぐに連絡してくれ。飛んで帰ってくる」
「はい。ありがとうございます」

 ジンさんは私の頬にそっと触れ、キスをしてくれた。
 何度されても心が癒される、愛する人からの口づけ。
 こんなに切ないものは、他にないよ。

「行ってくるよ、アスカ」
「行ってらっしゃい」
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