私の愛した彼は、こわい人



 その日の午後。
 ジンさんが帰ってくる前に、私は出かける準備を始めた。
 病院へ連れていってくれると昨日言われたが、彼の善意を無視することになって心苦しい。

 保険証と財布とスマートフォンを鞄に入れ、マンションを後にする。周囲を警戒しながらタクシーを呼び、西新宿駅近くにあるクリニックへ向かった。

 行き着いた先は──産婦人科。

 吐き気を抑えながら受付を済ませてソファに座る。
 呼び出しまでの時間がとてつもなく長く、永く感じた。

 待合い室には妊婦さんがたくさんいた。まだまだお腹が小さい人もいれば、臨月かと思うくらいの大きさになっている人。みんな幸せそうな顔をしていた。
 なのに……私は、不安でいっぱい。
 ちゃんと、検査するまではわからないよ。
 なにかの間違いかもしれないと、頭の片隅で否定し続けていた。 


「鈴本さん」

 一時間以上が経ち、やっと看護師さんに呼ばれた。
 診察室に案内され、まずはお医者様とお話する。

「鈴本さんですね。本日はどうなされましたか?」
「あの……えっと」

 なにをどう話していいかわからず、どもってしまう。
 産婦人科に来るのも初めてで全然言葉がまとまらない。

「緊張しないでくださいね。では、問診票に沿って質問させていただきます」
「はい……すみません」
「問診票には、妊娠検査薬で検査をしたと記入されています。──【陽性】だったそうですね?」

 先生が放ったひとことに、私は息を呑む。
 ──そう。陽性。
 ネットでこっそり頼んでいた妊娠検査薬が今朝届き、先ほど使用してみた。
 すると……陽性判定が、出てしまったの。

「線がくっきりと出ていて。赤ちゃんができたんでしょうか……?」
「検査薬の結果はほぼ確実なので、妊娠されているでしょう」

 確実。確実、なんだ……。

「内診をして子宮外妊娠などの異常がないか診る必要があります。よろしいですか?」
「はい……」

 ダメだ。覇気のない返事しかできない。 
< 135 / 192 >

この作品をシェア

pagetop