私の愛した彼は、こわい人
◆
その日の午後。
ジンさんが帰ってくる前に、私は出かける準備を始めた。
病院へ連れていってくれると昨日言われたが、彼の善意を無視することになって心苦しい。
保険証と財布とスマートフォンを鞄に入れ、マンションを後にする。周囲を警戒しながらタクシーを呼び、西新宿駅近くにあるクリニックへ向かった。
行き着いた先は──産婦人科。
吐き気を抑えながら受付を済ませてソファに座る。
呼び出しまでの時間がとてつもなく長く、永く感じた。
待合い室には妊婦さんがたくさんいた。まだまだお腹が小さい人もいれば、臨月かと思うくらいの大きさになっている人。みんな幸せそうな顔をしていた。
なのに……私は、不安でいっぱい。
ちゃんと、検査するまではわからないよ。
なにかの間違いかもしれないと、頭の片隅で否定し続けていた。
「鈴本さん」
一時間以上が経ち、やっと看護師さんに呼ばれた。
診察室に案内され、まずはお医者様とお話する。
「鈴本さんですね。本日はどうなされましたか?」
「あの……えっと」
なにをどう話していいかわからず、どもってしまう。
産婦人科に来るのも初めてで全然言葉がまとまらない。
「緊張しないでくださいね。では、問診票に沿って質問させていただきます」
「はい……すみません」
「問診票には、妊娠検査薬で検査をしたと記入されています。──【陽性】だったそうですね?」
先生が放ったひとことに、私は息を呑む。
──そう。陽性。
ネットでこっそり頼んでいた妊娠検査薬が今朝届き、先ほど使用してみた。
すると……陽性判定が、出てしまったの。
「線がくっきりと出ていて。赤ちゃんができたんでしょうか……?」
「検査薬の結果はほぼ確実なので、妊娠されているでしょう」
確実。確実、なんだ……。
「内診をして子宮外妊娠などの異常がないか診る必要があります。よろしいですか?」
「はい……」
ダメだ。覇気のない返事しかできない。