私の愛した彼は、こわい人
 さまざまな質問を受け答えするうちに、私の声はどんどん低くなっていく。
 先生は複雑な顔をした。

「内診の前にひとつお伺いします。鈴本さんは、妊娠継続を希望されていますか」
「……え」

 淡々と問いかける先生の言葉が、怖かった。
 一番、重要なことなのは理解している。
 でも、あまりにも突然で。この先どうするかなんて冷静に考えられない。

「私、まだ結婚していなくて……」

 私の返答に、先生は一度だけ口を閉ざす。表情は変わらない。
 じっとこちらを見据えてから、小さく頷いた。

「わかりました。では、まずは赤ちゃんの様子を見てみましょう」

 内診室に案内され、看護師さんに説明を受けてから準備する。
 ズボンと下着を脱いで、大きな椅子──内診台──に座らせられた。
 なんともいえない恥ずかしい姿勢になった。腰より下はカーテンで遮られているので先生の姿は見えないのでまだマシかな……。
 カーテンの隙間からはモニターがよく見える。

「では、超音波の機械が入ります。力を抜いてください」

 先生の声と共に、冷たい器具のようなものが中に入るのがわかった。
 うわ。なにこれ。変な感じ。
 数秒もしないうちに、モニターになにかが映し出された。
 黒色の袋のようなものがあって、その中には──ひとつの白い陰が見える。

「鈴本さん、見えますか?」
「はい」
「左下に黒い丸が映っていますね。これは胎嚢(たいのう)といって、赤ちゃんが入っている袋です。この小さな白い陰が赤ちゃんです。まだ胎芽(たいが)と呼ばれる状態ですが、しっかりと心臓を動かしていますよ」
「……え?」

 まだ、人の形にもなっていない。でも先生の言う通り、たしかに動いていて。
 この子が、赤ちゃん。私の、お腹の中にいるの……?

「最終月経と赤ちゃんの大きさから見て妊娠七週目に入ったところでしょう。今のところ異常もありません。赤ちゃんは元気に育っていますよ」
「あ、ありがとうございます……」

 私はモニターからしばらく目が離せなくなった。
 こんなに元気に心臓を動かして。赤ちゃんが、私の中で生きている。
 複雑な想いを抱きつつも、こう感じた。
 なんて神秘的なんだろう──と。
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