私の愛した彼は、こわい人
 なんとなく、予想はしていた。そもそもジンさんとするときはきちんと避妊していた。
 だけど、こんなことどうしても受け入れられなくて。
 頭がクラクラする。気持ちが悪い。

「大丈夫ですか、鈴本さん」
「す、すみません。つわりが酷いみたいで……」
「よければ点滴を打っていきますか」
「お、お願いします」

 別室に案内され、ベッドに横になり二時間ほど点滴を打たせてもらうことになった。

 先生は、受診の合間を縫って様子を見に来てくれた。
 私の懸念をなんとなく理解したのか、こんなことを言う。

「お相手の方とはお話できそうですか?」
「お相手って……?」
「赤ちゃんの、お父さんです」

 お父さん……。
 お腹の子の、お父さんは……ジンさんじゃない。
 タクトだ。
 話なんて、できるわけがない。
 歯を食いしばる私を前に、先生は眉を潜める。

「もしも妊娠継続を希望されないのでしたら、手術をすることになります。二十二週に入ると中絶ができなくなりますし、母体の安全も考えてなるべく早く答えを出してください」

 中絶。それって、お腹の子を殺すってことだよね……?

「一番いいのはお相手とよくご相談されることです。それが難しければ、鈴本さんご自身だけでもよく考えて決めてください。当クリニックでも手術はできますので」

 お大事にしてください、と言って先生はその場から立ち去っていった。

 中絶? タクトと話をする……?
 そんなの、無理。できるわけない。
 だからと言ってジンさんに相談する? 妊娠継続して産むの? そんなの、おかしいでしょ?
 どうしよう。どうすればいいの……?

 ベッドに横になりながら、私はずっと考えていた。
 考えて考えて、考える。
 答えなんて、出るわけがない。
 わけわかんないよ。答えなんて、わかんない……!

 点滴を刺した腕がじんじん痛む。 
 でも胸の痛みの方が、もっともっと痛かった。
< 138 / 192 >

この作品をシェア

pagetop