私の愛した彼は、こわい人
「僕は今、アスカと将来の話をしているんだよ」
「あ? バカかてめえ。アスカはとっくにお前と別れたんだが?」
「もう離れられないよ」

 タクトはニヤリと口角を上げる。
 まさか……。ジンさんに妊娠のことを言うつもり? やめて。それは、言わないで……!

「タクト!」

 焦り、私はタクトの前に立ちふさがる。必死に首を横に振って訴えるしかない。

「お願い。ジンさんにはこのことは言わないで!」
「なにを焦っているのかな? 事実をこの男にも教えてあげないと」
「いや……それだけは。お願い! せめて私の口からっ」

 言いかけたところで、続きの言葉が出て来ない。
 私の口から……ジンさんに伝えるの? 赤ちゃんができたって。お腹の子は、ジンさんとの子じゃないって。タクトとの間にできた赤ちゃんなんだって。私の口から、説明できるの?
 そんなの無理。伝えられるわけない。言いたくない!

「どうしたんだ、アスカ……?」

 背後から聞こえる、ジンさんの困惑した声。
 もしジンさんが妊娠のことを知ったら。それが、タクトとの子だと知ったら……。
 彼はなにを思うの──?
 私が焦燥に駆られる中、タクトは不自然なほど明るい表情を浮かべていて。
 口を大きく開けて嘲笑った。

「聞け、神楽。アスカのお腹の中に、新しい命が宿ったよ」
「タクトやめてッ!!」

 私がどれだけ叫んでも、タクトの暴走は止まらない。
 ジンさん。お願い。なにも聞かないで。耳を塞いで。お願いお願いお願い……!

「なんだって……?」

 ジンさんの、声が震えている。
 その声に重ねるように、タクトは全てを言い放ってしまった。

「僕とアスカの赤ちゃんなんだよ」
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