私の愛した彼は、こわい人
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私には勇気がない。解決力も行動力もない。
絶望の中で、私はユウキさんを頼った。ユウキさんに電話をかけて、助けを求めた。
ジンさんとタクトが殴り合いの喧嘩をしている。私では止めることができない。血が出るほどの力で殴り合っている、と。
ユウキさんは私の連絡を受けて、すぐさま駆けつけてくれた。ユウキさんがジンさんを押さえつけ、その場はなんとか収まったものの事の決着がついていない。
辺りは日が暮れ始め、気温がさらに下がる。
「こんな所じゃウダウダ話し合いもできないわ。オアシスに移動しましょう」
私たちはBarオアシスへ向かった。
バーに着くなりユウキさんは入口に「本日貸切」のプレートを掲げ、扉を閉めた。
場の雰囲気はありえないほどに重苦しい。
「なにがあったか知らないけど、あくまでも話し合いのためにここを貸してあげるだけよ。殴り合いの喧嘩は一切禁止」
そう言って、ユウキさんは私たちをテーブル席へと案内した。ジンさんとタクトは向かい合う位置で、私は二人の間に座った。
二人ともお互いの目を一切見ずに無表情。
顔が腫れているタクトにユウキさんは保冷剤を渡した。ジンさんには絆創膏を数枚。
ジンさんは壊れたサングラスを外し、不機嫌そうにテーブルの上にそれを投げ捨てる。
もう、気まずくて仕方がない……。
「ったく。なんなのよこの空気。葬式の方がまだマシよ」
カウンターに入り、ユウキさんはごちる。おもむろに煙草に手を伸ばし、火を付けようとすると──ジンさんが首を横に振った。
「ユウキ。煙草はやめてくれ」
「なんでよ」
「……アスカの腹の中に、ガキがいるらしい」
「は!?」
ユウキさんの手から、ポロッと煙草が落ちていく。
なんとも言えない顔で私を見て、ユウキさんはすぐに目を逸らす。
心が、苦しい。