私の愛した彼は、こわい人
「アスカ」

 ジンさんの優しい呼び掛けにドキッとする。
 たった今、あれほど荒れていたのに。タクトと大喧嘩していたのに。
 今のジンさんは冷静で、それでいてとても困惑している様子だ。

「なにがあったか、教えてくれないか」
「さっき僕が教えてあげたじゃないか。アスカのお腹には──」
「てめぇは黙ってろ、小野。俺はアスカに訊いてる」

 ドスの効いた低い声。
 こんなに怖いジンさん、見たことない。
 言いたくない……でもこうなってしまった以上、私の口からジンさんに説明しないといけない。
 固唾を呑み、私は重い口を開く。

「さっき病院で検査してきました。……妊娠七週目だそうです」

 ジンさんは目を見張った。
 彼が、なにを思っているのか私にはわからない。嫌われるかもしれない。呆れられるかもしれない。
 だけどちゃんと、伝える。伝えなきゃ。
 産婦人科で聞いたことを、私は包み隠さずに説明した。
 赤ちゃんは、一ヶ月以上前に授かったということ。それはつまり、タクトとまだ関係が続いていたときだということ。
 ……ジンさんではなく、タクトとの間にできた子だということ──
 こんな話、したくなかった。口にしたくなかった。
 胸が張り裂けそうだ。
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