私の愛した彼は、こわい人
 タクトの表情は「狂」に満ちあふれている。
 ゆっくり、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
 恐怖のあまり、私はその場で動けなくなってしまう。
 やだ。来ないで。来ないでよ……!

「ああ、驚かせちゃったかな。どうして僕がここにいるのか混乱しているよね。ふふ。僕はずっと君を張っていたよ。アスカが一人になるチャンスを窺っていたんだ」

 タクトは目の前で立ち止まると、私の顎を指で摘む。
 ぐいっと顔が近づいたその瞬間、寒気が走った。

「……やっ!!」

 情けない叫び声が漏れる。
 タクトは私の反応が気に食わなかったのか、チッと舌打ちをした。

「どうして僕の前ではそんなに怖がるの?」

 口調は冷静なのに、言葉の中に隠された憎悪が溢れ出るのがビリビリと伝わってきた。
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