私の愛した彼は、こわい人
 刺された。タクトに、お腹を刺された。
 嘘だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……!
 助けて助けて!!
 刺された箇所を抑えても、血は全然止まらない。
 このままじゃ、危ない。お腹の子の命も、危ない。死んじゃう。死んじゃうよ。
 お願い。血を止めて。止めて、止めて。止まって……! 止まってよ!!

「ふふふ……無様だね、アスカ。そんなに震えて」

 嘲笑うタクトは、真っ赤な血が付着した手で私のお腹をさする。
 悪魔。悪魔だ、この男っ!!
 私が睨みつけても、タクトの表情はなにひとつ変わらない。

「アスカと一緒になれないなら、腹の子が生まれてくる意味なんてないんだよ」
「ひ、どい」

 なんにもできない。どうすることもできない。
 みるみる全身の力が抜けていき、目の前さえもぼやけてきた。

「さあ、家族三人で一緒にあの世へ逝こう」

 タクトは手にしていた包丁を、おもむろに両手で握り締める。そして、自らの胸元に刃先を向けた。

「タクト……!」

 なにしてるの……!?
 タクトは躊躇いもせず、自分自身の左胸に包丁を突き刺したのだった──
< 176 / 192 >

この作品をシェア

pagetop