私の愛した彼は、こわい人
 彼女のことを心配しているのはユウキやキョウコさんだけじゃない。
 ベル・フルールのスタッフも同じだった。
 二ヶ月前のクリスマス・イブ。チンピラ三人がベル・フルールにかちこんできた。営業中の店内は大混乱に陥り、俺も阿川からの連絡を受けてすぐさま駆けつけた。
 チンピラどもは、菊池組と繋がっている男たち。つまり──俺の親父の組織とつるんでいる奴らだった。
 奴らは小野タクトの依頼でサロンに侵入したと言い、その場でアスカの妊娠の件も全てぶちまけてしまった。
 歯を食いしばり、ただただチンピラ共を押さえつけるしかできず。
 通報を受けた警察がすぐに駆けつけ、男三人はすぐさま連行されていった。
 あんな事件があった後でスタッフたちは動揺するはずだ。事が収まった後、アスカの同僚の若宮コハルが放った第一声はこうだ。

「アスカは……大丈夫なんですか?」

 他のスタッフたちもアスカのことを一番に心配していた。
 普段は淡々と業務を遂行していただけの阿川も、涙を浮かべてアスカを案じていて。
 アスカは、周りの人間に愛されている。彼女自身はそれを自覚しきれていないかもしれない。
 いつも後ろ向きで自分に自信のない彼女に、どうか前を向いて生きてほしい。俺は、心からそう願った。
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