私の愛した彼は、こわい人
「ジンさん、ごめんなさい」

 アスカはなぜか俺に頭を下げる。

「どうした?」
「私……一度でもあなたのそばから離れようとしてしまったから。ジンさんの優しさも、心遣いも、思いやりも、なにもかもが嫌になって、逃げてしまいました。あのときの私、どうかしていて。だからこんな私をおばあちゃんが夢という形で現れて注意してくれたのかもしれません」

 本当にごめんなさい、と謝罪を続ける彼女は、とても悲痛な顔をしていて。
 やめてくれ。アスカには、笑ってほしいんだ。

「謝るなよ」

 俺は小さく首を振る。

「アスカは弱虫だよな。しかもいつも後ろ向きで、すぐ自分が悪いと思うクセがある」
「……そうですね」
「だけど、少しは自覚しろ。アスカはいい女なんだよ。料理は美味いし、素直だし、仕事は死ぬほど頑張るし、周囲の人間に愛されている」

 「私が?」と、声を震わせる彼女。
 そうだよ。君は、最高の女なんだ。

「鈍感なところはあるが、根はしっかりしている。それに──昔のことをいつまでも覚えていて、恩を忘れない。一途で、こんなにいい女が他にいるか」
「……ジンさん……」
「俺にはもったいないくらいだよ」

 俺がそう言うと、彼女は大袈裟なほど首を横に振った。

「そんな。もったいなくない。ジンさんはとても素敵な人ですから」
「は。俺はヤクザの息子だぞ。本気で言えるのか?」
「言えます。お父さんがどうとか、関係ありません。ジンさんのこと、私、大好きで……どうしようもなく大好きなんです」

 彼女の告白に、俺の胸は一気に熱くなる。そんなことを言われてしまっては、俺はもう絶対に彼女を離したくなくなる。

「だったらずっとそばにいてくれ。お祖母さんが導いてくれたことを無駄にしないように。俺が支えていく」
「ジンさん……」

 彼女の瞳から、大きな涙が一粒落ちる。でもそれは、これまで幾度となく流した悲しみとは違うもので。
 彼女の笑みを見て、幸せの意味なんだというのが伝わってきた。

「ジンさん。大好き。ずっとそばにいてください」

 俺もだ。俺も、君のことが大好きだよ。

「一緒に幸せになろう」

 自然の風が囁き声を残す中。俺と彼女の間は熱に包まれる。
 太陽の光が空から降り注ぎ、それはまるで二人の明るい未来を描いているようだった。
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