私の愛した彼は、こわい人
「なあ、お前」

 私が握り締める御守りをチラリと見ると、神楽オーナーはスッと立ち上がった。サングラスの向こうで、鋭い目つきが私を捉えている。

「……ガキの頃、会ったことはないか」
「え?」

 突拍子もない問いかけに、私の頭上にたくさんの疑問符が溢れる。
 私と神楽オーナーが?
 数秒考えて、すぐに答えにたどり着く。
 もしも以前お会いしたことがあるなら、忘れたくても忘れられないと思う。失礼ながら、こんなにも強面なんだから。強烈に記憶に残るはず。
 私は首を横に振った。

「ないです」

 するとオーナーの瞳が小さく揺れた、気がした。
 私から目を逸し、背を向ける。

「どうしましたか?」
「いや……ガキの頃に会ったことがある奴と似ていてな。そいつも、アスカって名前だった」

 と、言われても。その人はきっと別人だ。
 どんなに記憶を辿っても「神楽ジン」という男性と関わった経験はない。
 もしかしてその「アスカ」さんは、オーナーの忘れられない人なのかな。

 神楽オーナーは再びこちらを振り向き、おもむろに手を差し伸べてきた。
 そして、大きなその手のひらで、私の頭を撫でてきたの。
 逞しい指先が、私の髪を梳くように……
 って。なに。神楽オーナー。なにしてるの!?

「水曜日は大仕事になる。忘れるなよ」
「え……は、はい」

 何事もなかったかのようにオーナーは私の横を素通りして、サロンから去っていった。

 ていうか。
 ……なに? なに? 今のは!? なんで、頭を撫でられたの私?
 けっきょく休日出勤は強制的だし、私なんかに拒否権はないらしいし。
 もう。朝からクラクラしちゃう……。
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