私の愛した彼は、こわい人
 夜七時。
 仕事を終えたジンさんは、私を横浜にある天空レストランに連れてきてくれた。完全個室で、落ち着いた雰囲気の和食料理屋さん。
 窓の外を見れば、大きな観覧車やお洒落なレンガ造りの倉庫、海を泳ぐ船が輝いていて、東京とは違った美しさが楽しめる。

「素敵なお店ですね」
「ああ。半年前から予約してたんだ」
「えっ。そんな前から?」

 私が驚く手前、彼は照れくさそうに頬を赤く染めた。

「アスカとの約束を守りたかったからな」
「約束?」
「二年前のクリスマス。イルミネーションを見に行こうと約束しただろ? なかなか果たせなくてごめんな。今年こそは、アスカに喜んでほしくて」

 去年のクリスマスは私が夜勤だったから、二人で過ごせなかったんだっけ。
 そっか……ジンさん。約束、覚えてくれていたんだ。

「ありがとうございます。ジンさんのおかげで今年は楽しいクリスマスが過ごせますね」
「アスカが喜んでくれるなら、俺も嬉しいよ」

 メリー・クリスマス。
 グラスを手に持ち、オレンジジュースで乾杯した。
 煮物や湯葉、天ぷらにお造りなど、上品な味わいがするお料理を堪能し、他愛ない話をして二人きりの楽しいひとときを過ごした。

「なぁ、アスカ」

 お料理が終盤に差し掛かった頃、彼はさりげなくサングラスを外した。素顔で私を見つめる彼の表情があまりにも真剣で。
 思わず、私は背筋を伸ばした。
 スーツの胸ポケットからジンさんが差し出したのは──小さな箱に入れられた指輪。
 ひと粒のダイヤがキラキラと輝いていて。目が奪われそうになるほど美しいものだった。

「俺と結婚してほしい」

 まっすぐと綴られた、プロポーズの言葉。シンプルで、且つ、大きな意味を持つ告白。それは、私の心の中にしっかりと響いて。
 考えるまでもない。
 早鐘を打つ心臓を落ち着かせられることもなく、私の答えはただひとつだけ。

「はい」
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