私の愛した彼は、こわい人
 閉店後。片づけを終わらせ、日報をまとめている途中。事務室にて阿川店長に呼び出された。

「鈴本さん。今度の水曜日、出勤になったのよね」
「あ……神楽オーナーから聞きましたか」
「ええ。レガーロ本社へ同行するんでしょう?」
「はい」
「鈴本さんも大変ね」

 大変どころか、すでに参っています。
 平社員の私でさえああだこうだ言われて疲れるのに。店長にはもっと負担がかかっているのではないだろうか。
 店長はふう、と深く息を吐くと、首を横に振った。

「あんまり悪くは言いたくないのよ、神楽オーナーに対して。ベル・フルールを救ってくれた人だから」
「と、仰いますと?」
「前オーナーが病気になってしまったのは話したわよね?」
「はい」
「実は前オーナー、治療に専念するためにベル・フルールを閉業しようかと考えていたみたいで」
「えっ」

 ……初耳だ。

「なかなか跡継ぎが見つからなかったなの。そこで名乗りを上げてくれたのが神楽オーナーよ。詳しいことはわたしも聞いていないけれど、前オーナーにご恩があるんですって。なにがなんでもベル・フルールを守るとオーナーが宣言したって話よ」
「あの、神楽オーナーが?」

 前オーナーにどんな恩があるかは知らないけれど、神楽オーナーの意外な発言に私はなぜだか胸が熱くなる。

「厳しい人ではあるけれど、神楽オーナーを信じてわたしたちも頑張らないとね。このご時世だし、新規契約をとるのも大変なの。やれることはやりましょう」

 阿川店長の渋い顔を見ると、私は頷くしかなかった。
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