私の愛した彼は、こわい人
 けれど、けっきょくのところ日は過ぎるだけで。あっという間に水曜日になってしまった。
 依然として、レガーロ化粧品シリーズの売れ行きは伸び悩んだまま。


 朝八時。
 何食わぬ顔で、私は出勤するタクトを送り出そうとする。

「タクト、今日は何時くらいに帰るの?」
「一日外回りで直帰するから、六時には帰れると思うよ」
「そっか」

 ということは、日中タクトはレガーロ本社にはいないってことだよね。

「アスカは休みだよな」
「あっ。うん、そうだよ」

 不意に訊かれ、思わずどもってしまう。

「……なにか、予定があるのか?」
「え? ないよ?」

 ブラウス姿の私をタクトはじっと見てきた。
 なにかを見透かされそうで、息を呑む。

「ああ、でもね、他サロンの体験に行こうかなって」
「なにそれ?」
「店長に言われたんだけど、たまには他サロンでエステ体験をしてみるのもいい勉強になるって。オーナーも変わったし、心機一転の意味も込めて行ってみる」

 完全に出任せで私は滑るように嘘をつく。

「そうなんだね。アスカは偉いな」

 と言って、タクトはそっと私の頭を撫でてくる。
 ……信じてもらえたみたい。

「でも、無理するなよ」
「無理してないよ」
「最近、アスカが疲れた顔してるからさ」
「そう?」
「新しいオーナーって、男だよな。なにか、嫌なことはされてない?」

 嫌なこと?
 うーん。強いて言えば、あの厳しさのせいで大変な思いはしてる。しかも、今日は半強制的に休日出勤をさせられるし。
 こんなこと、神経質で心配性のタクトには安易に伝えられない。
< 23 / 192 >

この作品をシェア

pagetop