私の愛した彼は、こわい人
 土屋氏は若干引きつった顔をした。

「いや、驚きました。前のオーナーさんとは全く印象が変わりましたねえ。まさか神楽さんのような気風のよい方が後任とは」
「ええ、わたしも驚いてますよ。これまでは主に飲食店や娯楽施設の経営をしてきましたが、美容サロンは初めてなもので。日々模索してますよ」
「ははは。そうでしたか。わざわざご挨拶に来てくださりありがとうございます。しかしながら担当の小野は本日不在でして。申しわけございません」
「いえいえ、お気になさらず。むしろ都合がいいです」

 え? タクトがいないと都合がいいの? どういうこと?
 オーナーは不敵な笑みを浮かべ、身を乗り出した。

「営業部長の土屋さん。ぜひあなたの知恵をお借りしたい。わたしはエステなんて一度も通ったことがなく、美容に関しても無知なのです。もちろん化粧品に関しても疎い」

 どことなくオーナーは圧のかかった喋りかたをはじめる。なんだか目つきもいつも以上に鋭いような。
 土屋氏はさりげなくハンカチを取り出し、額に滲み出る汗を拭った。

「知恵ですか。それは、どういった?」
「レガーロ化粧品の、成分についてですよ」

 オーナーは紙袋からレガーロ化粧品を手に取り、一式をテーブルに並べた。

「こちらは御社から仕入れさせてもらった商品です。化粧水に乳液、美容クリームとフェイスマスクなどなど」
「ええ、いつもありがとうござ──」
「ですがね、なんでか売れないんですよ」
「……はい?」

 土屋氏は目を見開く。
 オーナー? まさか、クレームでも言うつもり。

「お宅の商品は素晴らしいはずなんです。香料着色料、パラベン、それからアルコールが入ってないそうじゃないですか」
「はい。それが、うちの、売りでして」
「防腐剤が入っていないわりに品質が長持ちする。カモミールエキスやアロエベラなど美容成分も豊富だ。ユーザーに優しい商品ですね」

 ペラペラと話すオーナーはとても「素人」には見えない。
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