私の愛した彼は、こわい人
「土屋さん、汗の量がすごいですね。茶でも飲まれた方がいいのでは」

 事務の方が出してくれたお茶に手のひらを向ける神楽オーナー。
「失礼します」と言いながら土屋氏は茶を飲み干すが、咽せてしまう。
 構わずにオーナーは続けた。

「売れない理由は様々あると思います。一緒に原因を探りましょう。実際うちのお客さんからいただいた声を聞いてくれませんかね」
「は、はい。もちろんです」

 湿ったハンカチで汗を拭き続ける土屋氏は、ぎこちなく頷いた。

「おい」

 オーナーは私にタブレットを手渡してきた。

「レガーロ化粧品を利用した顧客情報を」

 顎で私を使うオーナーに対して密かに不満を抱きつつ、私は顧客情報を提示した。

 まずはフェイシャルケアで通われる六十代の女性。敏感肌とシミを気にされている方。お試しで一週間分の化粧水とフェイスクリームをご利用になったが、頬が赤くなってしまったので使用を中止。

 同じくフェイシャル利用の四十代女性。乾燥肌で、小じわを気にされている。美容液を使ってみるも二日後に痒みが出てしまったので返金対応。

 さらにボディケアで通われている四十代女性。ボディクリームをお試しになられたところ、体の一部に湿疹ができてしまったため利用を中止。こちらも返金対応。

 その他、これまでの利用顧客情報を読み上げていく。お肌に合わなかった、何かしら異常があった、という話が出続ける。中には効果を実感されたという声ももちろんあるが、二十代などの若い方が多い。
 改めて見てみると、レガーロ化粧品ってこれだけ問題になってたんだ……とちょっと悲しくなる。
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