私の愛した彼は、こわい人
 リュウお兄さんは数ヶ月後、知人の家に引き取られることになった。

 彼がヒゴロモソウで過ごす最後の日。私は寂しさのあまり、泣いてしまった。
 リュウお兄さんは泣きじゃくる私を前に、戸惑っていた。
 支援員さんに『ちゃんとバイバイしようね』と促され、私はなんとか涙を呑む。
 そして、ひとつのプレゼントを渡した。
 私を助けてくれたお礼を込めて。御守りのお返しの意味も込めて。
 支援員さんに手伝ってもらいながら作った、折り紙のドラゴン──リュウお兄さんの名前にちなんで一生懸命折ったんだ。

『リュウおにいさん、あげる』

 笑みを溢し、彼はドラゴンを受け取ってくれた。
 リュウお兄さんは私の視線に合わせてそっと頭を撫でてくれた。指先から伝わるぬくもりが、私の心までもあたためてくれる。

『幸せになれよ──アスカ』

 私の名前を呼ぶとき、リュウお兄さんはいつも優しい声になる。お別れの瞬間まで、それは変わらなかった。

 ねえ、リュウお兄さん。私、あなたに救われたことが今でも忘れられないよ。
 あなたは私に『幸せになれ』と言ってくれた。その言葉を胸に、前を向いていこうと思えた。
 だけど、大人になった私は、あなたのくれた言葉の通りに生きているのか自信がない。
 幸せってなんなんだろう。どうすれば感じられるのだろう。
 その答えを、あなたなら教えてくれるのかな。
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