私の愛した彼は、こわい人



 応接室をあとにし、レガーロ社を出た。
 曇り空が広がっていて、私の心情と重なって見える。
 ビルの前にある喫煙所で一服する神楽オーナーを少し離れたところで眺め、私は不満をぶちまけた。

「簡単にレガーロ社との契約を打ち切るなんて、どういうつもりですか。いくらなんでも酷すぎます」
「酷いのは俺か。文句ならレガーロ社に言え」

 オーナーの口から吐き出される副流煙が宙に昇っていく。

「落ち度は向こうにある。お前さんざん言ってたよな。化粧品が肌に合わない客ばかりだと」
「そ、そうですけど。効果を実感されている方もいらっしゃいます!」
「だったら残念な想いをした大半の客の気持ちはどうなる」

 ズバッと言われ、やはり返す言葉が見つからない。
 懸念していたことが、現実となってしまった。
 納得できないよ……。
 今後サロンで化粧品じたいを販売できなくなってしまう。
 こんな心配すら、オーナーのひとことであっさりと解決されるのだが。

「安心しろ。新しい契約先は見つかった」
「え?」
「阿川に調べさせた。日英共同で開発された『ビュート』の化粧品を今後サロンで取り扱う。明日、ビュート社と契約を交わすことにした」
「そうなんですか……!?」

 ビュート化粧品は、フェイシャルケアで通われている沢田様がご友人からお土産でいただいたという化粧品。
 やっぱり。
 店長にビュート社について調べさせていたのは、代替商品の契約をするためだったんだ。
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