私の愛した彼は、こわい人
「帰るぞ。社用タブレットは明日お前がサロンに持っていけ」
「……はい」
「送っていく」

 スタスタと駐車場の方へ歩いていくオーナーのあとを、私は黙ってついていった。
 この間、頭の中はタクトのことでいっぱいになる。

 帰ったら掃除や洗濯を完璧にしておいて、お風呂も準備して、夕食も全て用意しておこう。それから……タクト好みの服を着て。笑顔を絶やさず接しないと。
 できるだけ、タクトが気持ちいいように過ごしてもらおう。
 大丈夫。大丈夫だから。
 心の中で「大丈夫」を繰り返す。自分に言い聞かせるため、何度も何度も。
 鞄に付けている御守りを握りしめ、気持ちを落ちつかせようと必死になった。

 駐車場に到着し、オーナーは私の方を振り返る。
 たちまち訝しげな顔をされた。

「なんだ、そのしけた面は」
「い、いえ。なんでもないです」

 大袈裟に首を横に振るも、途端に目の奥が熱くなった。

 ああ……まずい。このままだと、感情が爆発してしまいそうだ。
 いてもたってもいられない。

「すみません。やっぱり電車で帰ります」
「あ? なんだよ急に」
「本日はありがとうございましたっ」
「おい」

 神楽オーナーの困惑した声を無視して、私はダッシュで駐車場から抜け出した。
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