私の愛した彼は、こわい人
 駅に向かう途中、見る見る涙が溢れた。
 鼓動も早くなって、息が苦しくなっていく。
 道行く人が、私を見てくる。
 大量の涙を流してる女がいたらそりゃ変に思うよ。
 気にしてられない。
 私はタクトのために、やらなきゃいけいないことがあるの。彼を怒らせないように。優しい彼でいてくれるように。私は、私が、気をつけないといけないの……!

 駅に着いたとき、スマートフォンがメッセージ受信を知らせた。
 ──タクトからのメッセージ。背中に冷や汗が滲み出る。

《アスカ。帰ったら話があるよ》

 絵文字もなにもない、シンプルなメッセージ。タクトがどんな表情で、どういう感情であるのか。これだけでは伝わってこない。ちっともわからない。
 私は一分以内に《わかりました》という返事と、ハートの可愛いスタンプを送った。

 早く、帰ろう。早く、帰らなきゃ。

 千代田線に乗り、電車の端っこの席に座り、息を整える。
 途中、社用タブレットを神楽オーナーから受け取るのを忘れていたことを思い出した。明日サロンで使うのに。
 もはや、オーナーにメッセージを送る余裕すらなかった。
 とにかく今日の夜が平和でありますようにと願うのに意識が囚われていたから。
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