私の愛した彼は、こわい人
 え……煙草?
 今、そんなことが気になるの……?

「ほら。髪の毛から煙草の匂いがするよ。今日は一日、誰かと一緒にいたんだよね?」
「それは」

 今朝、私はタクトに嘘をついてしまった。
 でも、誤魔化すのだけはダメ。きっと悪いことが起こるから。正直に、謝るしかない。
 私は震えた唇を動かした。

「実は今日、休日出勤になって……。神楽オーナーと一緒にレガーロ社に訪問したの」
「ふーん。今日は休みだと言ってたのに? どうして嘘をついた? なにかやましいことでもあるのかい?」

 やましいこと? そんなものないよ。
 タクトはそっと私の体を放すと、じっと見下ろしてきた。その目は、あまりにも冷たくて。

「ベル・フルールがうちとの契約を打ち切った。アスカは前から知ってたんだよね?」
「ち、違う。それは、私も予想してなくてっ」
「土屋部長から聞いたよ。神楽オーナーがうちの商品にケチつけて、契約を解除した挙げ句、損害賠償まで請求する気だって。たしかにうちに落ち度があるけど、酷い話だよね」

 抑揚のない口調で訴えるタクトの言葉に、私は肯定も否定もできない。目を伏せ、どう答ればいいのか考えて、考えて、考える。
 だけどなにも思いつかない。
 抜け殻になったように、私はただ立ち尽くしていた。

「しかもアスカは、神楽と一緒にうちに訪問してたんだよね」
「……うん」

 やっぱり。タクトは私が同行したのにこんなことになってしまって怒っているんだ。
 どうしよう。
 謝らなきゃ。
 謝らなきゃ……!

 けれど、次に放たれた言葉は、私が予想もしていないことだった。

「アスカが、僕以外の男と二人きりで過ごしていたなんて。許せない」
「……え?」
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