私の愛した彼は、こわい人
 新宿三丁目の雑居ビルの二階にある『Barオアシス』。
 神楽オーナーが経営しているというバーだ。

 店前に着いてから、ひとまず背中から降ろしてもらった。お店の人に間近でおんぶされている姿を見られるのはさすがに私の精神が崩壊する。
「気にするなよ」なんてオーナーに言われたけれど、到底無理です。
 鼻で笑う彼は、ドア横にあるセキュリティにカードキーを当てて扉を開けた。

 店内はそこまで広くないものの、淡い照明とゆったりした音楽のおかげで落ち着いた雰囲気を醸し出している。テーブル席には数組のお客さんがお酒を楽しんでいた。
 カウンターの中には一人、小柄な男性バーテンダーがグラスを磨いている姿があった。
 バーテンダーはオーナーに気づくと、目を輝かせる。

「あら~ジン! 来てくれたのねえ」

 凜々しい顔つきに似合わず、バーテンダーは高い声を出した。
 しかし私と目が合うと、みるみる表情が曇る。

「んん? ちょっと。誰よその子は」
「ベル・フルールの従業員だ。事情があって一時保護してきた」

 一時保護。
 若干、違和感のある表現だと思いつつ、否定できずに私は口を結ぶ。
 バーテンダーはつまらそうに頬杖をついた。
 なんだか、仕草が女性的な人だ。話し方からしてもたぶん、そういうタイプの人なのだろう。

「あの……私、鈴本アスカと申します。神楽オーナーには大変お世話になっております」

 面白くなさそうに私を眺めるバーテンダー。
 どうやら歓迎はされてないみたい。
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