私の愛した彼は、こわい人
 たしかにタクトは怒ると収拾がつかなくなることはある。あるけれど──

「彼は普段すごく優しいんです。たまに感情的になると乱暴になったりはしますけど……すぐに謝ってくれるます」

 本当のタクトは、優しい人。いつも怒らせてしまう私が悪いだけ。
 だから……だから……。
 言い訳を口にする私のことを、オーナーは哀れむような目で見てきた。

「本当に優しい男は、大切な人を傷つけたりしない」

 はっきりと、オーナーはそう言い放った。
 瞬間、私の中でなにかが砕け散る。脆くなった心の硝子が、一気に割れてしまったかのように。

「ジンってば。まーた可哀想な子、連れてきちゃって」

 ため息を吐きながら、ユウキさんが私の前にカクテルを差し出してくれた。ハワイアンブルーの香りがし、海色に輝いていてとても綺麗。
 オーナーにはオレンジジュースが出された。ストロー付きで、立派な身なりに対してのソフトドリンクはあまりにも似合わない。
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