私の愛した彼は、こわい人
「お取り込み中のところ失礼します」

 言い合っていた二人の視線が同時にこちらに向く。

「私、大丈夫ですから。自分で泊まれる場所、探します」
「今晩どうにかできたとしても、明日はどうする?」
「えっと……アパートに戻ろうかと」
「は?」

 私のひとことに、オーナーの目が見開く。

「なにを言っているんだ、お前は」
「一晩経てばお互い冷静になれると思います。どっちみちタクトに謝らないといけないですから」
「ちょっと待て。なにを謝る?」
「勢いに任せて逃げてしまったことです」
「お前を傷つけたあの男が悪いんだぞ」
「タクトを怒らせてしまう私が悪いんです。彼が穏やかに過ごせるように私が気をつけないと。そうすれば彼は暴言を吐いたりしません。叩いてきたり首を絞めてきたりもしませんから」

 タクトのところへ帰るのは怖い。その気持ちは変わらない。
 けれど、まだ信じたいという思いがあった。
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