私の愛した彼は、こわい人
「あんたの『怖い』っていう感情が全ての答えよ。一方的に手紙を送りつけておやり! 『さよなら』ってね!」
「そ、そんなことをしたら確実にタクトを怒らせてしまいます」
「本来なら警察にも相談すべき案件なのよ? 大ごとにしたくないんだったら、とにかく逃げること。ジンが付いてるんだから大丈夫よ」
「これ以上、オーナーに迷惑をかけたくありません」
「バカねぇ。そんなこと言ってる場合じゃないし、もう手遅れよ」
「……どういうことです?」
「今日、ジンから仕事を休めと言われたのよね」

 私はハッとして、小さく頷いた。

「昨日の代休として休みをいただきました。昨晩あんなことがあったから、オーナーが気を遣ってくれたんだと思いますけど……」
 
 施術が回るか心配だったが、私の憂いを払拭するようにオーナーは「腕のあるエステティシャン」にヘルプを頼んだという。どんな伝手があったのかは不明だが、経営者なだけあってきっと顔が広いのだろう。

「ジンはあんたの身を守るために休ませたのよ」
「私を守るために?」
「DV男にサロンの場所を知られてるんでしょ。いつ凸られてもおかしくないわ」
「たしかにそうですが……それを心配していたら、いつまで経っても私、出勤できなくなります」
「だからジンは警備を派遣するんですって。サロンのセキュリティも強化させるって話よ」
「そうなんですかっ?」

 思わぬ話に目を見張る。
 置き手紙には、警備会社に寄るという内容が書かれていた。まさか、そのために?

「あいつ、今回ばかりは自分でどうにかする気になったみたいね。ジンはいっつもあたしに厄介娘を押し付けてきたからさぁ。ホント、いやんなっちゃう!」

 ユウキさんの嘆きに、ものすごく申し訳ない気持ちになった。

「……私がバーへお伺いした際、迷惑だと思わせてしまっていたのならすみません」
「そうね。案の定、あんたも問題児だし」

 はっきりと言われ、胸に太い針を刺された気分になる。
 問題児……ですか。そうですよね。
 ちょっとヘコむなあ。

 でも──

 ユウキさんが持ってきてくれた大きな紙袋が目に留まり、自然と頬が綻ぶ。

「ユウキさんも優しい方ですよね」
「なに。媚び売るっての?」
「そうではなくて。お仕事明けに洋服や化粧品を届けに来てくれましたから。私なんかのために、ありがとうございます」

 私が軽く頭を下げると、ユウキさんは頬を赤くする。

「べ、別に。礼を言われる筋合いないわよっ。ジンは女物の服とかよくわからないだろうし、仕方なく持ってきてやったの」

 照れ隠しなのか、顔を背けるユウキさんがとっても可愛いらしい。
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