私の愛した彼は、こわい人
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昼の一時前には日吉のアパートに到着した。建物の前に車を停め、ユウキさんは部屋まで一緒にきてくれる。
玄関の前に立った瞬間、昨晩の出来事がフラッシュバックした。鬼のような形相で私を睨むタクトの顔が、脳裏に焼き付く。
すごく、怖かったな……。
だけど、躊躇している暇なんかない。
固唾を呑み、鍵を解錠し、私はおそるおそるドアを開けた。
「……えっ?」
──瞬間、血の気が引いた。
室内が、荒れている。
床の至る所に散らばる割れた食器たち。タクトとのお揃いのマグカップも粉々だった。私が作った料理は手つかずで、ゴミ箱に捨てられている。カーテンは破られ、窓ガラスにヒビまで入っていた。
部屋の惨状を見るにタクトは一人で暴れ狂ったのだろう。
私が、いないから。苛立ちをぶつける相手が、いなくなったから。タクトはどうにもできない感情を物に当たって解消したんだ。
怒りに満ちたタクトの顔を思い浮かべ、足がすくんでしまう。
私の体を支えてくれたユウキさんは引きつった顔をする。
「とんでもないわね、あんたの彼氏」
タクトは、優しい人。昨日までそう言い続けていた自分が恥ずかしくなる。
「さっさとこんな場所からおさらばしましょ。あんたの荷物は?」
「……そこに」
部屋の隅で、まるで私の迎えを待っていたかのように置かれたサマンサの鞄。財布やスマートフォン、化粧品など昨日と同じ状態のまま入っていた。
よかった……鞄には手を出されなかったみたい。
しかし、安堵したのも束の間。
鞄に付けていたはずの青い御守りがないことに気づき、私は息が止まりそうになる。
「あれ……? どこ行っちゃったんだろう……」
ぐしゃぐしゃに放置された衣服やタオルをかき分け、私は無我夢中になって御守りを探す。ユウキさんも手伝ってくれたのだが。
「嘘、でしょう……?」
ほどなくしてベッドの隙間に落ちていた御守りを見つけ、私は絶句した。
ずっと大切にしてきた青い御守りが、ボロボロになっている。
ハサミのようなもので乱雑に切り裂かれていて。どうしたって修復不可能な状態だった。