私の愛した彼は、こわい人
 その後の帰り道。記憶はおぼろげだ。
 アパートを立ち去るとき、名残惜しさなんて微塵もなくて。ユウキさんの車に揺られる間、なにか会話を交わした覚えもなくて。
 ユウキさんは「たかが御守りくらいで落ち込みすぎ」と思ったかもしれない。
 どんなに古びた御守りでも、私にとって大切な物だった。リュウお兄さんとの唯一の思い出だった。
 それのおかげで、どんなに辛いことがあっても後ろ向きにならないと思えたのに。



 西新宿のマンションに到着し、ユウキさんはゲスト用の駐車スペースに車を停めた。「とりあえずジンが帰ってくるまであたしも部屋にいる」と言い、一緒にエレベーターに乗った。神楽オーナーが借してくれたルームキーで、二人で部屋に入っる。
 午後五時。家主はまだ帰ってきていない。

「いつまでも悄気てないで、シャキッとしなさいよ」
「……すみません」
「とりあえず必要最低限の荷物は持ち帰れたし、別れの手紙は置いてきたし、DV男との問題はこれで解決でしょ」

 解決?
 そっか。本当にタクトとの関係は終わったんだよね。一方的な別れで、かなり無理やりで、しかもあっさり終わった。
 あまり実感が湧かないけど……安心していいんだよね?
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