私の愛した彼は、こわい人
 どっと疲れが襲ってきた。今はなにも考えたくない。
 しかし、こんなときでさえ体は正直で。
 憔悴しているはずが、不意に、お腹が大きな音を立てる。

「ユウキさん。朝もお昼も食べていませんでしたね。お食事にしませんか?」
「……」
「あれ、ユウキさん?」
「……」

 見ると、ユウキさんはソファに寝転がって眠っていた。数秒後、豪快にいびきをかきはじめる。
 休まずそばにいてくれたんだもの。相当お疲れのはずだよね。
 私はそっと、毛布をかけてあげた。

 たくさん厳しいことを言われたけれど、ユウキさんは心優しい人だと思う。これだけお世話になってしまったし、私を助けてくれた神楽オーナーにもお礼をしたい。
 二人になにか食事を作ろうかな。

 キッチンに向かい、冷蔵庫の前に立つ。「失礼します」と呟いてから中を開けてみた。
 庫内には、物があまり入っていない。バターとオレンジジュースと三つのたまご。調味料もあったが賞味期限切れのものも混じっている。野菜はいくつか保存されているものの、未開封のものも多い。肉類は豚肉のみ。ありあわせで作るしかない。
 三口のコンロは新品のように綺麗だった。自炊は全くしていないらしい。
 オーナーはいつもなにを食べているのだろう。外食やデリバリーが多いのだろうか。
 やっぱり、私なんかが手料理を振る舞うなんて烏滸がましいかな……。
 なんて迷っていると。

「なにボケッとしてんだ」
「きゃっ!?」

 突然背後から話しかけられ、思わず絶叫。
 慌てて振り向いたら。

「神楽オーナー……!」

 素顔を見せたオーナーが私を見下ろしていた。
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