私の愛した彼は、こわい人
 そう思っていると。やがてオーナーがベッドルームから戻ってきた。
 私は涙を呑み、なにごともなかったかのような素振りをしてみせる。
 ゆっくりとこちらに近づいてくるオーナーは、おもむろに私の隣に立った。

「アスカ。そんなに悲しむな」

 仕事中には絶対に聞けない、優しさに満ちた声色。

「たとえ御守りがなくなっても、代わりに俺がアスカを守る」
「……え」
「だから、元気出せ」

 彼なりの優しさなのだろう。思いやりに胸があたたかくなる反面、少し複雑だった。

「ありがとうございます。……でも、大丈夫ですよ」

 いくらオーナーに励まされても、リュウお兄さんの代わりにはならない。
 豚肉が茶色くなってきた頃にゆっくりと溶き卵を全体にかけた。フライパンに蓋をして数分もすれば出来上がりだ。
 ついでにサラダも作ろうと冷蔵庫に向かうが。彼に行く手を阻まれてしまう。

 ……なに?

 戸惑う私の目の前に、オーナーはサッとなにかを差し出した。

 彼が手に持つ物を見て、私は目を見開く。

 懐かしい記憶が、一気に蘇った。と同時に、なぜ神楽オーナーがそれを持っているのか理解できなかった。

「オーナー? どうして。あなたが持っているんですか……?」

 私の問いに、オーナーはふっと微笑み、一音一音ハッキリとした口調でこう言った。

「俺が、リュウだからだよ」

 ──彼の手のひらには、私がリュウお兄さんに渡したはずのドラゴンが握られていたのだ。
< 75 / 192 >

この作品をシェア

pagetop