私の愛した彼は、こわい人
「お前はずいぶんとレガーロを推すんだな」
「これまでに多くのお客様が効果を実感されています。私自身も愛用していました」
「していました? 今はどうなんだ」

 目つきが……怖い、けど。怯んではダメ。

「今は、使っていません」
「は」
「正直に申し上げますと、以前よりも効果が薄れてきた気がしたんです。逆に、お肌の調子も若干悪くなったと言いますか……」
「客に薦めるはずのエステティシャンがそんな風に言うか。笑える。所詮、不良品なわけだ」
「そ、そんなことありません!」

 不良品なんかじゃない。絶対に違う。私の肌には合わなかっただけ。私が悪いだけ。逐一レガーロ商品を下げるような言いかたはしないでほしい。
 ──しては、いけないの。
 私が興奮する姿に、呆れたような視線を向けて神楽オーナーは呟く。

「十万」
「……え?」
「今月中にお前一人でレガーロ化粧品を十万円分売ってみろ」
「十万、ですかっ?」

 レガーロ商品はフェイスマスクや美容ドリンクなどを含めても月にせいぜい六万くらいの売り上げだ。それをいきなり十万円。しかも私一人で? 無理難題にもほどがある。
 断ればいいものの、私は圧に負けてしまった。

「レガーロ商品全て併せて十万円ですね?」
「そうだ。まあ、無理だろうが」
「やってみます」
「ちょっと、鈴本さん!」と、阿川店長が慌てて止めに入ろうとするが、もう後戻りはできない。
 私の宣言を聞いた神楽オーナーは肩をすくめる。

「まあいい。どっちみち、今月も店全体の売り上げ目標は必ず達成させろ」

 ミーティングが終わると、オーナーは背を向けてさっさと立ち去っていった。
 いつの間にか私の心臓がバクバクと音を立てていて、しばらく落ち着かなかった。
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