私の愛した彼は、こわい人
 沈黙の時間が訪れて、しんみりした空気が流れた。
 今なら、少しくらい、オーナーの話を聞いてもいいだろうか。

「オーナーは施設を出たあと、お知り合いの家にお世話になったんですよね?」
「ああ、中学入学を期にな。──ユウキの家に迎え入れられたんだ」

 え……そうだったの?  全然知らなかった。
 ソファで眠るユウキさんに、視線を向けた。とても気持ち良さそうにいびきをかいている。

「ユウキの家にはガキの頃から世話になっていてな。ユウキの母親も、まるで俺を本当の家族みたいに可愛がってくれたんだ。ユウキの家のように穏やかな場所があるなんて知らなかった。俺の家庭は崩壊していたから」
「え……」

 神楽オーナーの家庭は崩壊していた?
 この文言を聞いて、私は言葉に詰まる。

「所詮、俺も施設で生活していた身だ。親父がどうしようもない奴だったんだよ。母親は、俺が十二のときに死んだしな」

 口調は落ち着いているが、彼の目はどこか切なさが刻まれている。
 詳細は聞けなかった。今は、聞いてはいけない気がして。
 私も、自分の過去はあまり他人に語りたくないし彼以外には伏せてきた。だからこそ、彼の気持ちを汲み取ろうと思った。
 ただ、とてもショックで。幼い頃に、オーナーはお母さんを亡くしていたなんて。お父さんのことも、どうしようもない奴だなんて……。やっぱり、家庭に複雑な事情があったから、改名をしたのね……?
 リュウお兄さんは、私と出会ったときからすでに色んなことを抱えていたんだ。

「俺の家はクソみたいな場所だったからヒゴロモソウでの生活は何倍もマシだった。一人懐いてくるガキもいたしな」

 と言いながら、彼はポンッと私の頭に手を乗せる。
 ……もう。これで何回目。こんなときでさえドキッとしてしまう。
 リュウお兄さんを思い出しているからなのか、それとも今の彼自身に新鮮味を感じているからなのか。自分でもよくわからない感情が続いている。
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