私の愛した彼は、こわい人
 と、ミーティングの最中。
 不意に着信音が響き渡った。オーナーのスマートフォンだ。「悪い」と小さく断りを入れてから通話に出る。

「なんだ。今は自由が丘のエステサロンにいるが」

 電話の向こうで男性の声が聞こえる。なんて言っているかわからないけど……なんだか騒がしい。

「……は。どういうことだ」

 オーナーは渋い顔になる。声もどことなく焦っているような。
 心配になってじっと彼を見つめていると、一瞬だけ目が合った。けれどすぐに逸らされてしまう。

「わかった。すぐに行く。他の客には迷惑がかからないよう、そいつは別室へ案内しろ」

 通話を終えたオーナーは慌ただしくスーツの上からコートを羽織る。

「ミーティング中に悪かったな。新宿でトラブルがあった。十二月の対策は後日聞く」

 ……え。行っちゃうの?
 と、一瞬だけ寂しさがこみ上げた。
 ダメだよ。「行っちゃうの?」なんて。
 彼はあくまでもオーナーとしての責務がある。
 私なんかが口出しなどできない。仕方がないでしょう。
 立ち去っていく彼の後ろ姿を黙って見送るしかない。
 ……言葉では言い表せない、寂しさを感じてしまった。
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