私の愛した彼は、こわい人
「私は今のところ予定ないよ」
「え。彼氏とデートしないの?」

 目を丸くするコハルを前に、私は苦笑した。

「実は……色々とあって別れたの」

 さすがに赤裸々に話すわけにはいかない。暴力を受けていたことも、相手がタクトだってことも。神楽オーナーに助けてもらって、今は彼の家にお邪魔しているなんてことも。
 私の顔をじっと見つめるコハルは、眉を潜めた。

「ごめんっ。あたし、余計なこと言っちゃったね」
「ううん。いいの。同棲してみて合わなかったみたいで……」

 なんて誤魔化してみる。
 嘘ではない。実際、タクトと暮らしていたときは苦しかったんだから。

「アスカも色々あったんだね、きっと。無理に聞かないから安心して。恋の傷は新しい恋で癒さなきゃ!」
「私は平気だよ」

 だって、今は彼のそばにいられるから。恋人というわけじゃないけれど、あのマンションで一緒に過ごせるだけでいいの。
 と、私が自分に言い聞かせていると。

「強がらなくてもいいんだよ~? ぶっちゃけさ、神楽オーナーとかどう?」
「……はっ」

 コハルのとんでもないひとことに、いよいよ心臓が口から出そうになる。
 どうって。なにが! もしかして、コハルに心の中を覗かれてるの!?
 そう疑いそうになるほどに。
 でもここは落ち着いて。

「もう。どうして急にオーナーが出てくるの?」
「だって、ちょうどいい男がすぐ近くにいるのにもったいないじゃん?」
「ちょうどいいって」
「神楽オーナーが最初ベル・フルールに来たときはさ、無愛想だし厳しいし超怖い顔してるし、感じ悪いし最悪~!て思ったんだけど。意外に凄い人じゃんね。去年より売り上げがめちゃくちゃ上がったし、サロンの評判も明らかによくなってるよ。天才経営者なのかも」

 彼がオーナーになったばかりの頃はあれだけディスっていたのに。オーナーとしてやり手だと気づいたコハルはすっかり推している。手のひら返しがすごいなあ、と妙に感心しちゃう。
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