私の愛した彼は、こわい人
「ていうか、神楽オーナーって彼女いるのかな? もしかして結婚してたりして!?」
「え」

 コハルの発言に、私は息が詰まる。
 彼女? 結婚……?
 それは、ないと思いたい。私と一緒に暮らしているし……。

「顔は怖いけど、よく見たら整ってるよね。仕事もできる、三十一歳のイケメン経営者。周りが放って置かないでしょ」
「そう、かもね……」
「あ、でも超厳しいのが難点だよね。やっぱモテないかも」

 もう……どっちなの。
 コハルの言葉のひとつひとつに、私の情緒も落ち着かない。
 マシンガントークを続けるコハルは、急に声量を落として。

「なーんか、匂うのよね」

 私の顔を覗き込んできた。

「匂うって。なにが?」
「具体的な『なにか』は言えないんだけど。なんとなくアスカは神楽オーナーに気に入られてるような気がして」
「えぇ? そんなことないよっ」

 声が裏返ってしまった。
 コハルはさらに詰め寄ってくる。

「たまーに。ホントたま~になんだけど。アスカを見るオーナーの目が、優しくなることがある気がするんだよねえ」
「……そう?」

 いや……そんなこと、ないと思う。たしかに他のスタッフよりは、物理的な距離は近いけれど。彼にとっては私はいちスタッフでしかないわけで。

「あたしはね、アスカには幸せになってほしいの!」
「ありがとう。私は今でも幸せだよ」
「ふふ。ならいいけど! アスカ、前に比べて顔が明るくなったもんね」
「えっ。そうかな?」
「前までのアスカはなんとなく思いつめたような顔をしてたから。ちょっと心配だったんだよね」

 コハルの指摘に、私は面食らってしまう。
 原因は考えなくてもわかる。
 ──あの人と暮らしていたからだ。

「アスカはさー、神楽オーナーのこと『一人の男性』としてどう思うの?」

 グイグイくるコハルに困惑しつつ、私は微笑をこぼす。
 彼の顔を思い浮かべ、私は小さく首を横に振った。

「尊敬してるよ」

 オーナーとしてもそう。一人の人間としてもそう。
 今の私には、そう答えるしかできない。
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