私の愛した彼は、こわい人
 帰り支度を終え、コハルと駅で別れ、私は一人で電車に乗る。
 マンションに帰るときはいつも隣にオーナーがいるから変な感じ。とは言っても、一緒に暮らしはじめてからそんなに日は経ってないのに。彼がいることがすっかり当たり前みたいな感覚になっていた。
 マンションに一人で帰るのは寂しいなぁ。自分がこんなにも寂しがり屋だなんて、初めて知った。
 できるだけ明るい道を歩く。途中、私が足を向けたのは新宿三丁目駅近くの雑居ビル。
 Barオアシスだ。
 以前ユウキさんからもらった会員証をセキュリティ部分に翳し、ロックを施錠した。一見さんお断りのユウキさんのバーは、ガードが固い。
 Openの札が掛けられた扉に手を掛けて中に入った。

「あら。アスカじゃないの! いらっしゃい~」

 私が初めてオアシスに来たときとは打って変わって、ユウキさんはキラキラした眼差しで出迎えてくれた。
 カウンター席を指さすユウキさんに「座って」と促され、私は会釈しながら腰かけた。
 テーブル席には、別のお客さんが数組お酒を楽しんでいる。そこで、着物姿の女性スタッフが接客をしていた。後ろ姿でよく見えないが、立ち振舞いがとても上品な印象。
 カウンターに両肘を置くユウキさんに、グイッと顔を覗き込まれる。

「アスカはお酒が飲める口よね。好きなのオーダーしてちょうだい」
「それじゃあ……ジントニックをお願いします」

 ユウキさんはニコリと微笑むと、グラスにジントニックを注いでくれた。差し出されたお酒を、私は静かに嗜む。

「聞いたわよ、アスカ」
「なんですか?」
「ジンと付き合うことになったんでしょ」 
「……へっ?」
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