【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です

雪の夜、ただいまの代わりに

ふわりと舞う雪が静かに街を白く染めていた。
めったに降らない東京の雪景色に、橘航太はふと肩をすくめる。

長い任務を終え、半月ぶりに帰国したばかりだった。

環境大臣のSP補佐として参加した国連サミットは無事に終了し、成田からそのままタクシーで紗良の家へと向かっていた。

機内で届いたメッセージには、
「雪が降るかもって!帰ってくる日に東京が銀世界なんてロマンチックじゃない?」
なんて、弾むような言葉が並んでいた。

「おかえり会しようね!帰ったら一番に来て!」と、いつものように明るく送り出してくれた紗良。
だからこそ、彼女の家に着いた瞬間の“異変”に、航太は強い違和感を覚えた。

玄関の前、足元にうっすらと積もった雪の上には、今日一日誰も出入りしていないことを示すように、彼女の足跡すらなかった。
鍵を開けると、部屋はしんと静まり返っている。
灯りもついておらず、カーテンも閉め切られたまま。

「……紗良?」
呼びかけても返事はない。
玄関の空気がどこか淀んでいて、暖房の気配すらなかった。

すぐに靴を脱いでリビングに入ると、キッチンにも、食卓にも、今日使ったような形跡がない。
不安が胸を締めつけた。

寝室のドアを静かに開けると、そこにはベッドにうずくまる紗良の姿があった。
顔は真っ赤に火照り、呼吸も浅く、小さくうめくような声が聞こえる。

「紗良…!?」

慌てて駆け寄り額に手を当てると、熱は明らかに高く、額も頬も熱を持っていた。
室内の寒さも相まって、心配が一気に押し寄せる。

――一体、いつからこんな状態だったんだ。

航太はジャケットを脱ぎ、すぐに体温計と冷えピタ、ポカリスエットの準備に取り掛かった。
この非常時に、自分がそばにいなかったことを悔やみながら。
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