【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です
食事を終えると、2人はいつものようにソファでくつろいだ。
紗良は航太の手をそっと取ると、指先で手の甲をなぞるように撫でていた。
ふいに指が小さなかさぶたに触れ、「あっ、ここ怪我してるよ」と声を上げる。

「訓練で擦りむいたのかもな」
航太が何気なく言うと、紗良はすかさず口を尖らせた。

「航太くん、いじめられてない? パワハラとかされてない?」
ちょっとふざけたように首を傾げる。

航太は吹き出して、「パワハラしてんのは俺の方だな」と笑う。

「……え、どういうこと?」
紗良は目をぱちくりさせて、航太の顔を覗き込んだ。

「新人警護官の指導でさ。『現場で失敗するくらいなら、ここで死ね』とか普通に言ってるもん」

紗良は絶句し、本気でドン引きした顔をした。

「えっ、航太くん……そんなこと言って、クビにならないの?」

航太は肩をすくめ、「俺はまだ優しい方だよ」と苦笑する。

「先輩教官なんてさ、動線確保ミスった新人に『お前の背中に要人いたら今ので殺されてる。責任とれるか?今すぐ棺桶に入ってシミュレーションしとけ』って言ってたの、聞いたことある」

「え……なにそのブラックジョーク……っていうか、ブラックすぎて笑えない……」

「まあ、命預かってるからな。ふざけてるようで本気なんだよ」

紗良はため息をつきながらも、怪我のあとにそっと指を滑らせた。

「……でも、せめて航太くんは、無事でいて。厳しくしても、自分を傷つけないでね」

航太はその言葉に黙って頷き、紗良の手を軽く握り返した。
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