【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です

守護者の矜持

警視庁本部の訓練棟。コンクリートの床と鋼鉄の扉が重厚な空気を作り出している。
その一角、訓練室03では、航太が指導する新人3人が、模擬警護シナリオに臨んでいた。

「標的、12時方向から接近、女。右手ポケットに不審な動きあり!」

航太の指示が飛ぶと、訓練生の一人が即座に対象と被警護者の間に身を差し込む。
もう一人は遮蔽物の位置を確認し、咄嗟に退避ルートを確保しているかをチェックする。

「お前、今の動き、被警護者の死角を晒してる。そこ、絶対に空けるな」

航太の声に、訓練生の背筋が伸びる。

訓練の一部には、実際の事件のケーススタディに基づいた対処訓練も含まれていた。

今回のテーマは「イベント会場内での突発的な刺突事件」。

攻撃者役の警察官がゴムナイフを持って突入すると、被警護者役を守るべく、新人たちの身体が瞬時に動いた。

「回避じゃない、“遮断”だ。自分の体で守るってのは、そういうことだ」

航太の言葉は、重い。

さらに午後は射撃訓練と体術指導。特に航太は、新人が“誰かを守るときの動き”に徹底的にこだわった。

「撃つことより、撃たせない配置を覚えろ。撃つ時は最後の手段だ」

手加減のない体術稽古。航太は新人に投げられても、すぐに起き上がる。

「警護官に必要なのは体格じゃない、“立ち上がる覚悟”だ」

汗が床にぽたぽたと落ちる中、航太の目だけは終始鋭く、それでいてどこか、守る者としての静かな責任感を湛えていた。
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