モテ期なんて聞いていない!ー若手実業家社長の幼馴染と元カレ刑事に求婚されています
「姉ちゃんは知らないんだよ」
十何年ぶりかに、弟に姉呼ばわりされたあかりは気持ち悪さに固まる。あかりが硬直している隙に幸人はコース外のメニューをちゃっかり頼む。
「ちょっ……何してんのよ!?」
あかりの叱責をよそに、幸人は運ばれてきた上カルビを網に乗せると丁寧に焼き始めながらポツリと呟いた。
「あいつがどれだけ姉ちゃんに捕らわれていたのか知らないだろ」
「……」
知るわけないと一刀両断にするには、幸人の声はやるせなさに満ちすぎていた。あかりは口を噤むと幸人が皿に乗せた肉を食べる。高いはずの肉なのに、味はしなかった。
「モテるんだよ、理貴って」
あかりは頷く。あのルックスに高学歴に加えて若手実業家、社長という肩書もある。モテない方がおかしい。だからこそ、疑問なのだ。なぜ自分に執着しているのか。
その答えを幸人がくれる。
「なのに気持ち悪いくらい姉ちゃんのことを一途に想ってさ。あいつだって忘れようと他の女と付き合っていたこともある。けど選ぶのはあかりに似た女ばかりだし、結局は長続きしないし」
幸人は深くため息をつく。
「理貴は反省してたよ、あかりに無理やりキスしてしまったって。けど俺に言わせれば理貴をそこまで追い詰めたのはあかりだ」
幸人の言い分はめちゃくちゃだ。わかっていたが、あかりは自身を責めた。
理貴に言い寄られて、悪い気はしなかったからだ。むしろ優越感を感じていたし、颯に振られた心の穴を埋めるために理貴を利用していた自分がいたからだ。
あかりの箸が止まったのを見て、幸人も自身の手を止めた。あかりに鋭い視線を送りながら、幸人は苦言を呈した。
「気持ちがないなら早いとこ振ってやれ。それもこっぴどくな。じゃないと理貴はずっと前に進めない」
友を慮る幸人のセリフに、あかりは何も言えなかったのだった。