モテ期なんて聞いていない!ー若手実業家社長の幼馴染と元カレ刑事に求婚されています
「オレ以外の男のことで泣くな」
「な……いてなんか……」
いない、と続けようとしたが、喉の奥がキュッとしまって続きを口にすることはできなかった。代わりに目から吹き出したものが、あかりの気持ちを代弁する。
颯は腕に力を込める。痛いくらいの力で颯の胸に押し付けられたあかりは息をするのもやっとだ。颯のスーツを汚してしまう。そう思うのに涙は止まらない。
「オレがいるだろうが」
ずるい、と呟いた言葉は颯の唇に吸い込まれた。彼のキスがしょっぱかったのはきっと自身の涙のせいとわかっていても切なかった。
颯は性急なキスをした後、悪いと言い残し訪れた時と同じように慌ただしく去っていった。
台風が去った後のように何も無い場所に残されたのは、虚しさと苦しさだけだった。
違う男に気持ちが傾いているのを承知で重ねられた颯の唇は、彼の目論見どおり再度あかりの心を揺さぶることに成功した。
理貴に少しだけ傾いていた天秤がゆっくりと平衡に、そして颯の方に倒れていったのだ。
颯のキスは、まだ彼に気持ちがあるとあかりに自覚させるのには充分で、これ以上ない行動であった。
中途半端な姿勢は結局皆を傷つけて終わる。わかっているのに、颯と理貴、二人の間で揺れ動くのもまた、あかりの正直な気持ちではあった。けれどどっちつかずの状態でフラフラと心が定まらない状態は、苦しくて堪らなかった。
颯が来なければ。
きっと、颯の思いも、理貴の気持ちも受け入れない決断を下せたのに。
誠実にも真摯にも向き合えていない自身の不誠実さに、誰もいなくなった部屋であかりは思う存分泣いたのだった。