モテ期なんて聞いていない!ー若手実業家社長の幼馴染と元カレ刑事に求婚されています



 ※

 早野に電話で外出許可をもらってあかりが訪ねた先は実家だった。正確には祖父が剣道を教えている道場である。

 道場に一歩入るだけで、一気に空気が張り詰める。あかりは昔からしていたように、入口で「お願いします」と一礼し壁際に荷物を置いた。
 道着には道場に立ち寄る前に実家で着替えていた。
 まだ師範である祖父は不在だ。あかりは今のうちにと、固まっている手足を伸ばす。
 念入りに屈伸をし、体が解れたと感じた頃、祖父が入って来て着座した。あかりは祖父と向かい合う形で正座になる。「黙想!」というピリリとした、昔から変わらない祖父の声と同時に目を閉じた。
 体に染み付いた習慣というのは、中々忘れないようだ。黙想するだけでモヤモヤとしていた心が不思議と落ち着いてくるのだ。祖父の「開けっ!」の言葉と同時に目を開けたあかりは、正面へ、続いて祖父――いや師範へと座礼をする。
 静かに頷いた師範を確認したあかりは立ち上がり、体に染み付いた動作をしていく。
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