モテ期なんて聞いていない!ー若手実業家社長の幼馴染と元カレ刑事に求婚されています
素振りと足捌きを師範が良しと言うまで散々繰り返す。やっと良し、の声がかかると次は面をつけて師範相手に打ち込み稽古だ。
毎日稽古に明け暮れていた時と比べて竹刀を持つ機会がぐっと減ったあかりは、目に見えて衰えていた。そんな事情は師範は考慮しない。張りのある厳しい言葉がかけられる度に、あかりの頭から雑念が消えていき、純粋に目の前の人間の動きにだけ集中していく。同時に鈍っていた体が少しずつ勘を取り戻していった。
パァンッ!!
ようやく師範から一本取った頃には、ゆうに三時間が経過していた。
「そこまでっ!」
師範の言葉にあかりはハッと我に返る。集中で周りの雑音は全く耳に入らなかったのだ。
面を外し、汗を拭ったあかりは始まりの時と同じく黙想し、正面と師範に座礼をする。
「ありがとうございました」
師範から祖父の顔に戻った老人は、汗こそかいているがあかりと同じだけのメニューをこなしたとは思えないくらい平然としていた。
「最後だけだな、良かったのは。怠けすぎだ」
祖父の言葉にあかりは、ごめんなさい、と小声で詫びる。
確実に明日は筋肉痛になっていると予想がつくくらい、体中ギシギシいっている。だが、無我夢中で稽古をしたからか、気持ちはいくぶんスッキリしていた。祖父もそれを感じ取っていたのだろう。
「まぁ、来たときより表情はマシになったな」
と、頷く。そしてあかりに着替えが終わったら、近所の喫茶店に来るように命じたのだった。