モテ期なんて聞いていない!ー若手実業家社長の幼馴染と元カレ刑事に求婚されています

 あかりが久保の後ろを見ると、そこには今話題にしていた颯が立っていた。
「おっ、山科。奇遇だな」
 苦い顔をしながら颯は久保に釘を刺す。
「いらんこと聞くな」
「いいじゃん、気になるし」
「お前には関係ないだろ。ってかさっさと仕事しろ」
 取り付く島もなく、サッサと何処かに向かう颯に久保は苦笑して席を立った。
 これ以上あかりのそばにいたら、颯を苛立たせるだけだと判断したのだろう。
「福田ー、邪魔して悪かったな。呼び出し、お疲れさん。書類(それ)、さっさと仕上げて帰れよー」
「コーヒー、ご馳走様です」
「おう!どういたしまして」
 気さくに返事をした久保が足早に去っていくのを確認して、あかりはホッとため息をつく。
 
 颯とは部署は違うからそこまで頻繁に会うことはないけれど、同じ職場であるからこうして顔を合わせてしまうことがある。
 別れた直後だし、会うのが気まずくないといえば嘘になる。

(久保さんがいてよかった)

 お互いに公私混同するタイプではないが、さすがに別れた男女が二人きりでいたとあっては、あらぬ噂を立てられる。
 再びため息をついたあかりは、いつもの癖で先程の颯の表情を思い浮かべる。

(颯さん、顔色悪かったな。……ちゃんと休めているのか……)

 そこでハッと気づいて、首をブンブンと左右に振って今浮かんできた気持ちを追い払う。

 もう彼女じゃないのだ。心配しても颯に何もしてあげられない。

 あかりは想いを振り払うように残りの書類に向き合った。

 普通なら三十分程で終わる書類に一時間半かかってしまったのは余談である。
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