モテ期なんて聞いていない!ー若手実業家社長の幼馴染と元カレ刑事に求婚されています
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「山科くんは命に別状はないみたいだよ。十針くらい縫ったみたいだけどね」
「……そうですか」
早野はさすがに疲れた様子で目頭を揉みながら椅子に深く腰掛ける。
それでも観察眼は健在だ。
「浮かない顔だね、あかり?」
「いえ……」
あかりは一旦は首を振ったが、思い直して早野に訊ねた。
「なぜ山科係長は私を庇ったんでしょうか?」
「わかるわけないでしょ。ぼくは山科くんじゃないし」
もっともな答えを寄越した早野だが、少しだけ颯の肩を持つ。
「まぁ、気持ちはわからなくないよね。惚れた女が目の前で刺されそうになっていたら、とっさに庇っちゃう」
あかりはムスッとする。
「それが警察官同士であっても、ですか?」
「うん。だって理屈じゃないもん」
早野の言葉にあかりは黙る。ここぞとばかりに早野は喋る。
「あかりの言いたいことはわかるよ。君は一人の警官だってわかる。ちゃんと制圧する構えもとっていたしね。けど実際問題、あんな大男に全速力で突っ込まれたらあかりでは制御出来なかったのも事実だ」
「……はい」
しぶしぶながらあかりは答える。
「身長差もあるし、上からナイフを振りかぶられたら山科くんどころの怪我では済まなかっただろう。そうするとまたマスコミが騒ぎ立てる。ぼくとしては山科くんが私情を挟んだとはいえ、マスコミの餌食にならなくてホッとしているよ」
颯の行動を私情と言い切った早野はよろよろと立ち上がった。
「さて、オジサンはもう限界だよ。取り調べも終わったし、彼女はシェルターで保護することも決定した。報告書の作成は任せたよ」
「了解しました」
あかりの返事に弱々しく手を振って、早野は文字通りフラフラとこの場を去っていったのだった。