モテ期なんて聞いていない!ー若手実業家社長の幼馴染と元カレ刑事に求婚されています
「どうぞ」
個室に通されたあかりは、先に着いていた理貴に促され、上座に座った。
自分より圧倒的に稼いでいるであろう社長を差し置いて上座に座るのは気が引けるが、ここは年長者を敬わってくれているのだと、自身を納得させる。
「あかりちゃん、久しぶりだね」
呼び方は昔のままなのに、記憶より低い声。
正確にはわからないが、座っていても上背がそこそこあるということは、背も高いだろう。
あんなに小さかったのに、と感傷に浸るのは自分が年を取った証拠だ。
苦笑したあかりは、「久しぶり」と理貴と同じ言葉を返した。
「ごめんね、呼び出して。びっくりした……よね?」
話し方も変わらない。兄二人と弟一人の男兄弟で揉まれて、今でも男所帯の仕事に就いているあかりよりよっぽど丁寧な言葉遣い。
自分のことをちゃん付けで呼ぶのは今も昔も理貴くらいだ。
弟の幸人すら、「あかり」と呼び捨てするから。
あかりちゃんと呼ばれるのはどこか面映くて、尻の座りが悪い。
一方理貴はあかりの照れなど気にしていないかのように見つめてくる。
真剣に自分を見てくる理貴の顔からは、どんな気持ちなのか、読み取ることは難しかった。