モテ期なんて聞いていない!ー若手実業家社長の幼馴染と元カレ刑事に求婚されています
(そうだった。理貴って顔に出ないんだった)
「あかりちゃん、好き嫌いなかったよね?適当に頼んでいいかな?」
あかりが頷くのを確認すると、ボーイを呼び寄せ、メニューを開きながら小声でやり取りをする。
大人の男性らしくスマートな姿。
尤も、あかりの周りにはこんな所に招待してくれるような男はいないから、ドラマで得た知識であるけれど。
(昔の理貴では考えられな……いことはない、か)
あかりが鮮明に覚えているのは、理貴が小学生の頃までの姿だ。
あかりの家から五分の賃貸マンションに住んでいて、祖父がしている剣道場に通ってきていた頃。
その頃から理貴は、どこか洗練されていた。
整った顔立ち。いかにも都心の唯々ところから引っ越して来ました、といわんばかりのキレイな言葉遣い。
異性を意識しだす三年生の頃に転校してきた理貴は、同級生の男子が幼く見えるほど大人びていた。
女の子とも臆せず話すし、誰にでも丁寧に接するし、頭もいい。
極めつけは、当たり前のようにポケットに洗濯したてのハンカチが入っていた。
男子にありがちなポケットの奥でクシャクシャに丸められたやつではなく、アイロンがかけられ柔軟剤のいい匂いがするハンカチだ。
それだけで周りの男子とは一線を画していた理貴は、大多数の女の子からは憧れの目で見られ、一部の男子からは徹底的に嫌われた。